高度に知的なチンコの話
チンコ。この言葉を聞いても、私達の心に風は吹かない。眉一つ動かさない。何も感じない。
例えば、私達は安倍首相が「チンコ」と言っても何も感じないし、キム・ジョンウンが「チンコ」と言っても何も感じないし、オバマ大統領が「チンコ」と言っても何も感じない。
でも、はるか昔、私達がまだ幼児だった時代――チンコは鉄板ネタだった。「チンコー!」って言っただけで爆笑できた。「チンコ」の一言で、男女問わず笑顔になれた。
しかしもはや我々は「チンコ」という言葉では笑わない。何も感じない。人を殺しても何も感じない殺人鬼のような冷酷な心でチンコという言葉を受け流せる。それくらい、もはや我々にとって「チンコ」は無力だ。我々はもうチンコに飽きたのかもしれない。
TBSテレビに安住さん、っていうアナウンサーがいるんですよ。アナウンサーの割にそこそこトークもうまいんですよ。で、ある日テレビで安住さんのゆかりを辿る、みたいなコーナーがあったんですね。
安住さんは大学時代に教職課程を取っていたそうなんですよ。で、その番組では安住さんが、大学で現在教職課程を取るために学んでいる学生とともに授業を受ける、みたいな感じで。その時の議題が「走れメロス」で。この「走れメロス」を生徒たちにどのようにプレゼン……というか、授業をやって学ばせればいいか、っていう感じで仮想授業を、皆(教職課程を学ぶ大学生たち)の前でやるんですね。で、何人か学生がプレゼンした後に、先生が「じゃあ、最後に安住さん、お願いします」って突然言われて、安住さんが「えー!?聞いてないですよ無理ですよ準備してないですもん」みたいなことをブーブー言いながらも、前に立たされて。で、やっぱり喋りのプロのアナウンサーだから、即興で「走れメロス」を題材に授業をやったけど、それが凄い面白いの。
「走れメロス」は、めっちゃ簡単に内容を言えば、事情があってメロスが超頑張って走る話なんだけど、安住さんは「走れメロス」でメロスがどれだけ懸命に走ったかの文章表現に着目するの。走れメロスがどれくらい早く走ったかの表現に『沈みゆく太陽の10倍早く走った』っていう表現があるそうなんだけど、安住さんは「これを実際に計算した学者がいましてね。マッハ9です。メロスはマッハ9で駆け抜けるわけですからこの速さだと衝撃波が発生して周りの家々の窓ガラスは粉々に割れます」的な話をしてて、聞いてる大学生も先生も大爆笑なの。
で、私は思いましたね。「あ、これチンコだ」って。皆が笑ってる。皆が面白いと感じてる。これは、子供たちにとってのチンコだ。子供たちにとってのチンコが、大人にとってのこの安住さんの話――知的で面白い話だ、と。
この安住さんの話の面白さを理解するには、色々基礎的な知識が必要なんですよ。「走れメロスがどんな感じの内容の話かを知っている」「沈みゆく太陽が、実はめちゃくちゃすごいスピードであることを知っている」「マッハのスピードで衝撃波が発生することを知っている」「衝撃波が発生すると周りのもの(窓ガラスとか)が壊れることを知っている」ここらへんの知識を知らない子供とかだと逆に「何を大げさに話をしてるんだろう」って思うかもしれないけど、ここらへんの知識を知っている私達大人は「あぁ、ほんとだ!すげぇ!」って笑えるんだと思う。
つまり、この面白さを理解するにはある程度の教養を必要とする。つまり、これは高度に知的なチンコだ。
つまり、我々は「チンコ」という単純なものではなくて、もっと高度で知的な理解するのにある程度の前提知識を必要とするものに面白さを感じるようになったのだと思う。つまり、レベルの高いチンコだ。ちょっと難しく感じるかもしれないけど、大丈夫だ。源流はチンコだ。
つまり、大人が感じる何らかの面白い話は、大元はチンコだ。源流はチンコだ。ただ、もはやチンコに飽きたので、我々大人はもっと高度に知的なチンコの話で楽しんでるのだ。一見チンコに見えないかもしれないけど、大丈夫だ。チンコだ。
要するに、私達が何らか面白いと感じるものはつまり高度に知的なチンコなんですよ。
小説が好きな人にとっての夏目漱石←チンコ。
数学が好きな人にとってのフェルマーの最終定理←チンコ。
科学が好きな人にとっての相対性理論←チンコ。
映画が好きな人にとってのタイタニック←チンコ。
恐竜が好きな人にとっての化石←チンコ。
アイドルが好きな人にとってのAKB48←チンコ。
ゲームが好きな人にとっての艦隊これくしょん←チンコ。
政治が好きな人にとっての国際情勢←チンコ。
投資が好きな人にとってのFX←チンコ。
ね?こんな感じで大体チンコなんですよ。
「すべての物語はシェイクスピアによって語り尽くされている」っていう言葉があって、昔小説書いてた私としてはこれ、むかつくんですよ。じゃあお前シェイクスピアが本当に稲中卓球部的なストーリー書いたのか?ボボボーボ・ボーボボ的なストーリー書いたのか?クレヨンしんちゃん的なストーリー書いたのか?と。勝手にシェイクスピアが語り尽くしたことにしてんじゃねぇよ、と。ストーリーはまだまだ無限の可能性があるよ、って思ってたんだけど。今ならわかる。
多分、シェイクスピアは「私のすべての話はチンコである」って言ったんだと思う。そうだ。我々の面白さの根源はチンコにある。それなら納得だ。
でも、私は別にストーリーに限定してない。相対性理論も化石も艦これもチンコだ。もはや我々はチンコそのものには面白さを感じないけど高度に知的なチンコには面白さを感じる。
だって例えばチンコ屋さんに行って「チンコください」って言ってチンコでてきたら、何も面白くないじゃん。っていうか注文そのままじゃん。このチンコ屋は何もわかってない。
例えばチンコ屋さんに行って「チンコください」って言って花束が出てきたら、あー、この店主は分かってるなー、ってなるじゃん。これだよね、って思うじゃん。
例えばチンコ屋さんに行って「チンコください」って言って若いアーティストが書いた絵画が出てきたら、あー通だなってなるじゃん。そう来たか、ってニヤニヤするじゃん。
例えばチンコ屋さんに行って「チンコください」って言って小石が出てきたら、これはもう深いね。哲学だね。このチンコ屋さんの底が知れない。
この文章の最初のほうで『安倍首相が「チンコ」と言っても何も感じない』的なこと書いたけど、中には「いや、俺は面白いと思うけど?」って人もいたかもしれない。はっきり言ってあなたはレベルが低い。誰が店主かじゃなくて何が出てくるかでチンコ屋を語れよ。
例えば何かの飲み会でシモネタで盛り上がってるのに乗っかってこない人がいて「ノリが悪い奴がいるなー」っていうことがあるかもしれないけど、逆だ。お前のレベルが低すぎて引くわ。今時チンコ屋に行って「チンコください」言ってチンコもらって喜んでるのはガキとお前だけだ。大人になれクソが。
例えばあなたが何かの学会とか研究会とか勉強会とかフォーラムとかに行って、皆が面白そうに盛り上がってるけどレベルが高すぎて皆が何喋ってるのか全然わからない、って言うことがあるかもしれないけど、大丈夫。大体奴ら、チンコの話してるだけだから。「要するにチンコだな」っていう理解で大きく外れてないから。
何も案ずることはない。すべての道はチンコに通じる。
思い出してみると、小学校の勉強とかクソつまらなかった。中学校の勉強もつまらないし、高校の勉強もつまらない。
だから、今小学生の子とか中学生の子とか高校生の子は毎日「つまんねぇつまんねぇ」思いながら学校に行ってると思う。でもね。信じられないかもしれないけど、大学の授業はちょっと楽しいぞ?
つまり、小学校、中学校、高校は高度に知的なチンコを理解する過程なんだよ。たしかにチンコを理解する過程はつまんないんだよ。チンコそのものじゃないから。でも、ここで勉強しないと、最終的な高度に知的なチンコそのものの面白さがわからないんだよ。
大学は、小中高すべての勉強の集大成なんだよ。チンコそのものを学べるんだよ。だから面白いんだよ。
より偏差値が高い大学のほうが、より高度に知的なチンコの話が聞けるんだよ。だから、個人的には偏差値のことはチンコ値と置き換えてもそれほど問題ないと思う。
チンコを知る過程はつまらない。それを乗り越えた時に理解できる高度に知的なチンコは面白い。
でも、たまに「これは性質的にはチンコそのものであるべきなのに、チンコを知る過程の性質のままだな」ってものがある。
例えば契約書。みんな、なんらかTwitterとかFacebookみたいなウェブサービス使い始める時に「使うならこの契約に同意してね」的な文章が多分あったと思うけど、読んでる?読んでないよね?「はいはい、同意同意」ってな感じだよね?だって、契約文ってくそつまらないじゃん?多分、契約文って法律的にフォーマットがある程度決まってるんだよ。つまり、契約文の書き方を学んだ人がそのまま「チンコを知る過程」的な性質で文章を書いちゃってるんだよ。
でも、個人的には契約文ってチンコそのものであるべきなんだよ。ある程度面白さが必要だと思うんだよ。だって、ほとんどの人に読まれてないってことはそもそもの契約文としての意味をなしてないじゃん。
たとえばこのサイトは「さくらインターネット」っていう会社のサービスを使って公開してるんだけど例えば契約書は以下の感じだ。
基本約款
第1章 総則
第1条(約款の構成および適用)
1.当社は、以下のとおり構成される当社約款に基づき契約(以下、その契約を「利用契約」といい、当社と利用契約を締結した者を「利用者」といいます)を締結の上、インターネット関連サービス(以下、「本サービス」といいます)を提供します。
i.基本約款
利用契約の締結手続および本サービスに共通して適用される事項を規定するもの。
ii.サービス別約款
サービス基本約款:本サービスの基本サービスごとに、その本サービスの基本サービスおよびオプションサービスについてのみ適用される事項を規定するもの。
オプション約款:本サービスの各基本サービスに付加する場合に限り利用可能なオプションサービスにのみ適用される事項を規定するもの。サービス基本約款中に規定される場合とサービス基本約款とは独立して規定される場合があります。
2.利用契約には、本基本約款および利用者が利用するサービスに対応するサービス別約款が適用され、これらにより利用契約の内容が規律されるものとします。
3.本基本約款とサービス別約款に矛盾または抵触する規定がある場合、サービス別約款の規定が優先して適用されるものとします。サービス別約款のうちサービス基本約款とオプション約款に矛盾または抵触する規定がある場合、オプション約款の規定が優先して適用されるものとします。
4.利用契約の締結は、本サービスの基本サービスごとまたはオプションサービスごとに行われるものとします。
5.当社約款のいずれかにおいて定義された用語は、特に規定しない限り、他の当社約款においても同一の意義を有するものとします。
6.本基本約款およびサービス別約款中で指定されるウェブページ(URLによる指定、名称その他の方法による指定を問いません)は、特に明記がない限り、約款の一部を構成するものではありません
↑これ、読む気する?しないよね?チンコじゃないよね?で、個人的にこんな感じにチンコにしてみたらどうかと書き換えたのが以下だ。
基本約款
第1章 総則
第1条(約款の構成および適用)
1.当社は、以下のとおり構成される当社約款に基づき契約(以下、その契約を「悪魔の契約」といい、当社と利用契約を締結した者を「ハニー」といいます)を締結の上、インターネット関連サービス(以下、「パンティー」といいます)を提供します。
i.基本約款
悪魔の契約の締結手続およびパンティーに共通して適用される事項を規定するもの。
ii.サービス別約款
サービス基本約款:パンティーの基本サービスごとに、そのパンティーの基本サービスおよびオプションサービスについてのみ適用される事項を規定するもの。
オプション約款:パンティーの各基本サービスに付加する場合に限り利用可能なオプションサービスにのみ適用される事項を規定するもの。サービス基本約款中に規定される場合とサービス基本約款とは独立して規定される場合があります。(以下、魔王が登場するかのごとく)
2.くっはっはっはっは……!!よく来たな、勇者どもよ!!悪魔の契約には、本基本約款および利用者が利用するサービスに対応するサービス別約款が適用され、これらにより悪魔の契約の内容が規律されるものとするぞ!!(以下、友だちのごとく)
3.本基本約款とサービス別約款に矛盾または抵触する規定がある場合、サービス別約款の規定が優先して適用されるものとしておくね。サービス別約款のうちサービス基本約款とオプション約款に矛盾または抵触する規定がある場合は、オプション約款の規定が優先して適用されるものとするからよろしく。(以下、萌えっ子のごとく)
4.はにゃにゃ〜。悪魔の契約の締結は、パンティーの基本サービスごとまたはオプションサービスごとに行われるものとするのだにゃー。(以下、反抗期の女子高生のごとく)
5.はあ?うちの約款のどれかにおいて定義された言葉は、特に規定しない限り、他のうちの約款においても同一の意義を有するものだからね?一回で分かれよ?(以下、サムライ登場)
6.本基本約款およびサービス別約款中で指定されるウェブページ(URLによる指定、名称その他の方法による指定を問いません)は、特に明記がない限り、約款の一部を構成するものではないでござる
↑こんな感じにすれば少しは読もうかな、って思うわけじゃん。個人的には日本国憲法もそうだよね。日本国憲法ってみんな読んだことある?なんか小学校か中学校の授業でちょっと習ったかな的な記憶がうっすらあるけど、大人になってから一度もきちんと読んだことない。なぜなら、日本国憲法って読んでもつまらなそうだから。あれもチンコになるべきなんだよ。例えば文章の最後に全部「だにゃー」ってつけるだけで、マジで全部の条文の終わりが「だにゃー」で終わってるの?ってちょっと読む気になるじゃん。で、一箇所くらい「ござる」で終わらせとけば「日本国憲法には一箇所だけ『ござる』で終わる文がある」って話題になるよ。トリビアになるよ。
大事なのは、誰かが進んで読んでくれるように、なんらか面白い要素、すなわちチンコを入れるべきなんだよ。
で、ここまで書いて読み返してみると、私の文章日本語としてなりたってねぇな。チンコの定義も曖昧だし。まあいいや。ちんこちんこ。